2017-6-29 記事


俺がケーキ屋で支払いをしていると
自動ドアが開いて、幼稚園児ぐらいの
女の子がひとりではいってきた。

女の子は一人で買い物に来たらしく、
極度の緊張からか、ほほを赤く染め
真剣なまなざしで店員に

「けえきください」

と声を発した。
いかにもバイトといった感じの
女子高生らしき店員は、

「一人で来たの?ママは?」

と問いかけた。
すると、女の子は、どもりながら必死で、
一人で来たこと、今日が母親の誕生日なので
驚かせるために内緒で自分の
小遣いでケーキを買いに来た、
という趣旨のことを長い時間かけて
何とか話し終えた。

店員は戸惑いながら

「そうー、偉いねー。どんなケーキがいいの?」

と一応注文をとった。

「あのねー、いちごがのってるの!」

どう見ても女の子が大金を持っているようには
見えない。 手ぶらだ。

財布が入るような大きなポケットもついてない。
まず間違いなく、小銭を直にポケットに
入れているだけだろう。
俺はハラハラしながら事態を見守った。

店員も女の子がお金をたいして
持っていないことに気づいたらしく、
イチゴが乗っているものの中で一番安い
ショートケーキを示し、

「これがイチゴが乗ってるやつの中で
一番安くて380円なの。お金は足りるかな?」

と問いかけた。

すると、女の子の緊張は最高潮に達したようで、
ポケットの中から必死で小銭を
取り出して数え始めた。

俺は心の中で神に祈った。どうか足りてくれ!

「100えんがふたつと・・・50えんと・・・
10えんがいち、にい、さん・・・」

俺は心の中で叫んだ。

ああっ!
ダメだ!
280円しかないっ!!!

店員は申し訳なさそうに
お金が足りないからケーキは買えないという
趣旨の説明を女の子にした。

それはそうだろう。
店員はどう見ても単なるバイトだ。
勝手に値引いたりしたら雇い主に怒られるだろうし、
女子高生にこの非常事態を大岡越前ばりの
お裁きで丸く納めるほどの
人生経験はなくて当然だ。
かといって、赤の他人の俺が女の子のケーキの
金を出してやるのも不自然だ。
女の子が自分の金で買ってこそ意味があるのだから。

女の子には買えないことが伝わったらしく、
泣きそうなのを必死で堪えながら、
というより、声こそ出してないが、
ほとんど泣いていて、
小銭を握ったままの手で目をこすりながら
出て行こうとした。
すると、ろくに前を見てないものだから、
自動ドアのマットにつまづいて転んだ。

その拍子に握っていた小銭が
派手な音を立てて店内を転がった...

 

次ページに続きます。


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